湯浅研究室

担当教員 : 湯浅 良介

「部屋の中に大きなりんごを」

窓が一つあるだけの小さな部屋いっぱいに大きなりんごが描かれた絵画があります。デペイズマン、「異郷の地に送る」という意味をもつシュルレアリスムの手法を使用したルネ・マグリットの作品で、そこにあるはずもない、現実には存在し得ないサイズのリンゴが画面いっぱいに部屋を埋め尽くし、このりんごはりんごであってりんごではないかもしれないという疑念を生じさせながら、それでも僕たちが知っているりんごというイメージが、この絵画を見る人の目と記憶とイメージを揺さぶります。

STUDIO YUASAでは、この大きなりんごを部屋の中に見るような想像力と、この大きなりんごのようななにかを創作する力を養うことを目標に研究・制作をします。
ぼくたちの身の回りに存在するすべて、世界を構成するあらゆる要素は創作のモチーフです。人間がつくりだしてきたあらゆる芸術が表象するイメージも、その背景を含みながら見つめ直し僕たちの創作に紐づけます。それらはきっと、今僕たちがつくりだすものが、連綿と続く地球と人間の時間と結びついているという癒しと希望を、結びついてしまうという縛りとこわさを、教えてくれます。それらを知った上で、どう自由に思考できるかを考えたいと思います。

例えば、人が人のために作り出す建築や空間や家具、そのスペースやオブジェクトが、今起きている出来事や事象、その状況を捉え直すユーモアをもって存在することができたなら、肯定も否定もせずに、自分が抱えるものやとりまく状況すら許容するものとして認識できるかもしれません。それには、自由な思考がくれるしなやかなつよさと優しい眼差しをもって、目の前の世界を見ることが必要なのだろうと想像しています。

René Magritte『The Listening Room』(1952)