こんにちは、大内田光と申します。
私は現在、修士2年生で犬飼研究室に所属しています。
2023年9月から2024年3月までの半年間、ドイツのベルリン芸術大学に交換留学していました。この投稿では留学を目指す後輩の方の参考に、私の留学経験を少し残しておきます。
留学に興味がある学部生や大学院生、内部進学からの交換留学を計画する4年生、そして現在留学中の学生に読んでもらいたいです。特に留学中の方にはこれを読んで少しでも前向きに、元気になってもらいたいです。
もうすぐ交換留学A日程の募集締切ということで、志望動機など参考になると嬉しいです。
留学先概要
私はベルリン芸術大学院建築科に留学しました。ベルリン芸術大学はドイツ最大の芸術大学であり、特に音楽やファインアーツ(油画)の分野で非常に高いレベルを誇ります。ヨーロッパ各地から優秀な学生が集まります。オラファー・エリアソンが教授に居たりします。
近隣にはベルリン工科大学があり、互いに授業で交流する機会もあります。ベルリン工科大学は卒業生にブルーノ・タウトやフライ・オットーなど著名な建築家がいたり、ノーベル賞受賞者を多数輩出している超エリート大学です。
内部進学からの交換留学の強み
私は修士1年のタイミングで交換留学制度を利用して渡航しました。後から知ったことですが、大学院での留学は通常、1年の休学が必要で多くの学生が修士1年を終えた後に留学することが一般的です。そのため、この時期に留学できたことは非常に貴重な経験でした。
留学のきっかけ
私が留学を目指すきっかけとなったのは、学部1年生の時に修了制作の手伝いをした大川先輩(同じく修士1年でUdKに留学)の修士発表に衝撃を受けたことです。それ以来、なんとなくドイツ留学を目指すようになりました。
学部3年か4年の頃になって「そういえば留学に行きたかったな」と思い出し、一般に開かれていたオンライン留学説明会に参加しました。その会に登壇していた石井裕さん(MITメディアラボ)の話が、私の留学準備を進める直接のきっかけとなりました。
2021年冬の説明会です。調べたら視聴できるようなので、おすすめです。
留学前の期待
留学前には、自分の専門性を深める分野に出会いたいという期待がありました。大学院生活を通じて、学部からの継続的な学びではなく、新たな技術やデザインに挑戦したいという思いが強くありました。
結果的には叶いませんでしたが、現地でインターンシップに取り組む準備もしていました。
ベルリン生活
ベルリンでの生活は、多くの方々の支えのおかげで、大きな成長の機会となりました。心から感謝しています。
シェアフラット WGウェーゲー
留学する学生にとって、渡航前の大きな課題は住宅問題です。ベルリンは住宅不足が深刻で、家賃も高騰しています。私はUdKが紹介する寮(先着順)に入れなかったため、UdKから15分ほどの地域にシェアアパートを借りました。月々700ユーロ(当時14〜16万円)でしたが、寮は200ユーロ(約5万円)ほどです。渡航時期にはパレスチナやウクライナに関するデモやドイツ国鉄のストライキが頻発しており、交通機関が停止することもあったため、近くに住んでいたのは助かりました。また、留学中に就職活動も行い、日本とのオンライン面接のために朝早く学校(WiFiが安定しており、声を出せる場所)に行くことができたのも良かったです。
どうぞ、ご自由に
日常生活は、大体曇り空が続き、時折晴れ間が見えると本当に嬉しいものでした。留学終盤の3月頃には晴れの日が多くなり、同じUdKの留学生と「最近、ドイツ人が優しくなってきたな、冬のドイツ人は少しいじわるだよね」と話したくらい、人々の心理状況にも影響があるようです。
ベルリンは「どうぞ、ご自由に」という雰囲気が強く、良い意味でみんながそれぞれの生き方を尊重して生活しています。
デモが頻繁に行われ、多くの国から人々が集まっているのが特徴です。深夜の電車内で話した人はその日にガザから逃れてきた人でしたし、イスラエル人の同期が家族の安否を心配するなど、ベルリンの多様性と混乱を感じる出来事も多々ありました。これらの影響は大学内にも及び、イスラエル支持を掲げたベルリンの全大学に対する反発デモや校内の張り紙、落書きが増えるなどの状況がありました。
治安については、ヨーロッパの中では中の下といったところです。何かを奪われることは体験しませんでしたが、ホームレスや薬物利用の痕跡が多く、南東側の街の風景はカルチャーショックを受けるかもしれません。
ベルリンの強み
ベルリンの立地はヨーロッパ全域にアクセスしやすく、特に北欧は日帰りでも訪れることが可能です。しかし、ヨーロッパ内で少し北に位置しているため、スペインやフランスへのアクセスは若干不便です。ヨーロッパの中では物価が安く、滞在地としては非常に優れています。また、欧州中を結ぶ安価な高速バスや飛行機があるため、他の欧州滞在学生に比べて多くの建築を見ることができました。世界の建築を見ることで、建築をつくる原動力の多様性に圧倒されます。それと、各地に日本人の留学生がいるので楽しいです。
言語については、英語がほとんど通じますが、駅の売店や街のケバブ屋さん(ベルリンには本当にケバブが多い)ではドイツ語のみの対応です。この程度のドイツ語はすぐに習得できます。
また、図書館が多いので自宅と大学以外の勉強場所には困りません。現地の学生は本当に、本当に、沢山勉強しています。朝7時から夜中0時まで図書館には自習する学生がかなりの密度でいます。僕が留学中に日本で話題になった「ドイツ人は残業しない」は絶対に嘘です。
ベルリン芸術大学 建築科
UdK Architecture
大学の雰囲気を少し紹介します。エネルギー効率や建設時のCO2排出量など、環境設計の視座が必須であり、芸術大学にもかかわらず環境エンジニアリングに取り組む授業が必修科目としてあります。*留学生は必修外です。また、インターンシップを1セメスター(半年)行わないと卒業できないため、多くの学生が実務経験を持っています。こちらも留学生は対象外。
修了発表を見た印象では、建築設計ではなくリサーチ発表を修了作品としている学生が半数を占め、土中環境、木構造がホットなテーマのようでした。またベルリン工科大学との共同開講科目のおかげで、コンピューテーショナルデザインの学びが充実しており、ロボットアームと泥の吹き付けによる3Dプリントの環境も整備されています。
建築設計以外にも、インスタレーションを成果物とする学生もいます。レーザーカッターの設備は多摩美の方が充実しています。
図書館はフォルクスワーゲンがスポンサーで、かなりの蔵書数です。ドイツ語と英語の書籍が揃っています。ドイツ語は読めませんが貴重な図版に沢山出会えますし、逆に英語の資料を読むハードルが低くなるので日本にいた頃よりも英文をよく読みました。
図書館のおすすめの使い方は、建築コーナーを旅行ガイドとして使うこと。地名で大まかにゾーニングされているため、ニッチな観光スポットを見つけられます。例えばベネチアに行く前にはベネチアゾーンでOMAのリサーチブックやファサード調査記録集などを手にとると、旅行ガイドブックには載ってない建築に出会えます。
大学での研究活動
私自身は5つのプロジェクトに参加しましたが、そのうちのひとつ、「スタジオ」の配属で課題がありました。スタジオとは多摩美の「デザイン課題」のような立ち位置で、ここでの成果が一般的な留学成果となります。
私は最初の抽選で希望のスタジオから外れました。第二希望で配属されたスタジオはアットホームな雰囲気で、在学生と1年間滞在する留学生が多かったです。がしかし、スロースタートな雰囲気に違和感を感じたため、移籍するためのアクションをとりました。その後、抽選系の授業はすべて自分の学年数+1で申請しました。(上級生のフリをした。抽選に落ちている場合ではない)
講義からの学びよりも、成果物が残るものに多くの時間を割きたかったため、座学っぽいものはすべて履修しませんでした(推奨されているドイツ語レッスンもすべてバックレました)。結果的にこの計画は私に向いていたと思います。また、留学前に立てていたインターンシップと並行した留学計画は、この時点で変更しました。
取り組んだ活動は以下の通りです。
もし機会があればこちらの紹介も出来ればと思います。
・ホテルの改修プロジェクト(スタジオ課題)
・廃材を用いたインスタレーション展示
・木材の変形予測による窓枠の制作(ベルリン工科大学との共同研究)
・ヨルダンに建設する建築の環境設計
・ベルリン国会議事堂の構法解析、作図
*これらの成果資料と留学スケジュールについての報告資料は国際センターで常時閲覧できます。
教育環境「私は外国人」
教授陣は非常に積極的で、質問するとどんどん教えてくれました。
ここで気づいたのは、外国人であることのメリットです。日本にいるとなかなか聞けない「今さら質問」を、未熟な英語力のおかげで逆に聞ける環境が生まれていました。どういうことかというと、子供の様な稚拙な英語で質問されることで建築に関する初歩的な質問も「ウッチーは英語が分かっていなさそうなので全て教えよう」という感じで手取り足取り教えてくれるのです。
これはプレゼンにおいては苦労するものの、実は非常に貴重で、今まで質問しづらかったことが逆に積極的に質問することで解消されるという体験ができました。
専攻分野での新たな発見としては、膨大なデータを機械処理することで可能になる形態や、その思考回路が可能にする研究コンセプトそのものが非常に貴重だと感じました。例えば、環境シミュレーションソフトをつかったことがある設計者なら「こういう形態になると環境性能が高そうだな」とある程度予測できる様になるし、すぐにそれを確認することができます。また、木の反りやコンクリートのひび割れ、塗膜の剥離など、今まで予測できなかった現象をデザインに応用するシミュレーションも盛んに行われています。
語学の課題と向き合う
「今日、なにも話せてないな。先週もだわ。あーあ。」
留学中に直面した困難として、語学の壁や学問的なスキルの差がありました。
最初のころは何も話せずに帰る日も多かったし、自分の番が回ってくる前に逃げるように帰った日もありました。思い出すと今でも胸がキュッと締め付けられる感覚になります。しかしこの困難は実はチャンスで、「英語で勉強するのがそもそも初めてだから、たくさん教えてもらうキャラクター」になったこともありました。
また授業ごとに可能な限り多く描くスタイルを確立し、積極的に先生に聞きました。沢山書いていることの強みは、ミーティングの記録が正確に残ることです。絵をみると議論で出た修正ポイントや重要な記憶が思い出せます。
後で気づいたことですが、現地の学生は私が英語が苦手であることを理解しており、それでも私の考えを知りたいと思ってくれていました。
授業において、「英語が分からない」のか「内容が難しすぎるため分からない」のかという問題に関しては、おそらく後者が多いです。特にベルリン工科大学との共同開講科目では、現地の学生も授業内の理解が難しかったようです。現地学生が多く発言していたのは理解しているからではなく、理解するために議論する、という意識があるからで、とんちんかんな質問をしても全く問題ないし他の人の質問ハードルが下がるのでむしろ歓迎。授業後のフォローも集まりやすくなり、良いこと尽くしです。
議論の内容はたとえば「大きすぎる問題にどう立ち向かうか」という抽象的なものでした。
スタジオ(研究室)配属の注意
また、スタジオ選びも一つの挑戦でした。教授によってスタジオの雰囲気が大きく異なり、留学生にとっては完全に運任せのような状況でした。私も配属されたスタジオに違和感を感じ、移籍するためのアクションを取りました。教授と助教に自分の状況を説明し、移籍希望をメールで伝えることで、無事に新しいスタジオに移ることができました。
経済的な困難
経済的な困難もありましたが、渡航前から数多くの奨学金に応募しました。円安と物価高により、制作費が不足しそうになったため、留学中にも奨学金に応募し、受給することができました。この支援は最後にとても助かりました。
さいごに
私の留学は、多くの方々に支えられたものでした。友人や経済的に支援してくださった皆様、そして私が気づかないところで力を貸してくださった方々、本当にありがとうございました。この場を借りて、改めて感謝を申し上げます。
これから留学を志す後輩の皆さんへ
留学しよう、と心にしてこのページを読んでくださっているあなたは、もう既に多くの課題を解決しています。そして、これからも解決していけると思います。
何か力になれることがあると思いますので、ぜひ気軽に声をかけてください。ここに書ききれなかったことがまだ沢山あります。いつでも歓迎ですので、沢山話しましょう!
留学中のみなさま
お疲れ様です。みなさん、とても苦労しているかと思います。本当にお疲れ様です。帰国後に一緒においしいご飯を食べましょう。ベルリンではSasayaが日本料理のおすすめです。店主の方(日本人)はとても気さくなので、話しかけてみてください。
ヨーロッパではジブリ作品をNetflixで見られますよね。風立ちぬがおすすめです。作中、ドイツ出張のシーンがあります。寒すぎてタバコが吸えないシーンや列強諸国の技術力の高さに関心するシーンは共感するところが多いのではないでしょうか。久しぶりの日本っぽいテンポ感も心が休まると思います。作中、夢の中で出会うイタリア人設計士のカプローニのセリフ「さあ、思いっきり飛べ」の「思いっきり」という部分が僕はとても好きです。完全に自分の価値観で、「一番」という意味の思いっきり。誰かと比較されるわけでもなく、ただただ「思いっきり」飛ぶ。どのくらい飛んだかどうかは誰も確認できません。あなたの凄さは、あなたにしか分からない。そういう価値観です。どう飛んでもいい状況で、思いっきり飛んだあなたの留学の土産話をとても楽しみに待っています。週7日24時間対応で連絡待っているので、困ったら連絡してくださいね。残りの留学期間、作り続ける君を応援しています!